「山寺山にのぼる細い道の近くまできて、赤土(注、関東ローム層)の断面に目を向けたとき、私はそこに見なれないものが、なかば突きささるような状態で見えているのに気がついた。近寄って指をふれてみた。指先で少し動かしてみた。ほんの少し赤土がくずれただけでそれはすぐ取れた。それを目の前に見たとき、私は危く声をだすところだった。じつにみごとというほかない。黒曜石の槍先形をした石器ではないか。完全な形をもった石器なのであった。われとわが目を疑った。考える余裕さえなくただ茫然として見つめるばかりだった。」
(相沢忠洋『「岩宿」の発見』1973年、講談社文庫、P.176)
●旧石器時代人の生活● |
◆旧石器時代遺跡ねつ造事件 2000(平成12)年11月、旧石器時代前期とされていた上高森遺跡(宮城県)のねつ造が発覚しました。発掘調査担当者の一人で東北旧石器文化研究所の副理事長が、自ら持参した石器をひそかに更新世の地層に埋めている姿が『毎日新聞』の記者にスクープされたのです。その後の調査・検証によって、上高森遺跡をはじめ、彼が発掘に関わった旧石器時代前期・中期とされる遺跡のすべてがねつ造として否定されました。旧石器時代前期・中期の遺跡名を載せた教科書や歴史書は、訂正や回収されるという騒ぎになりました。 この結果、旧石器時代の確かな遺跡は、今のところ、約3万5,000年前以降の後期旧石器時代のものだけとなっているのです。 【参考】 ・河合信和『旧石器遺跡捏造』2003年、文藝春秋(文春文庫) |
◆先土器文化(せんどきぶんか) 更新世の地層から打製石器は出土するものの、土器が見つかりませんでした。そこで、土器の発見に先立つ文化というので「先土器文化」、土器がないというので「無土器文化」、縄文時代より以前の文化なので「先縄文文化」などと呼んでいました。現在は「旧石器文化」という呼び方に統一されています。 ただし、「旧石器文化」の次を「新石器文化」でなく、「縄文文化」と呼ぶのでは名称のつけ方に一貫性がない、という意見があります。そこで「岩宿文化」の名称を提唱する人もいます。 |