小林秀雄(1902~1983。文芸評論家)の『無常という事』(角川文庫版、1954年初版)を読み直してみた。内容が薄く、思考を要しないお手軽な本がもてはやされる昨今、小林秀雄なんて時代に逆行する本の代表だ。しかし、そんな時代だからこそ、特に若い人たちには、流行に乗らないような本を奨めたい。
小林秀雄が書いた本は、とにかくわかりにくい。晦渋(かいじゅう)の譏(そし)りを受けたこともしばしば。しかし、負荷のかからない筋肉トレーニングが何ら効果を生まないように、「お手軽本」は若い頭脳の成長に寄与しない。噛みごたえがあり、消化不良を起こすような読書も、時には必要だ。
「思い出となれば、みんな美しく見えるとよく言うが、その意味をみんなが間違えている」
「解釈を拒絶して動じないものだけが美しい、これが宣長の抱いたいちばん強い思想だ」
「晩年の鴎外が考証家に堕したというような説は取るに足らぬ。あの厖大な考証を始めるに至って、彼はおそらくやっと歴史の魂に推参したのである」
ちょっと背伸びをして、小林秀雄の評論やエッセーに挑戦してみよう。わからなければわからなくていい。大人の教養の格の違いというものを思い知らされる。
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